2010.3 未来をつくる

文/松永詠美子

『HAPPY BIRTHDAY Mr.B!』という詩集を知っているだろうか。外国人のミュージシャンが、僧侶兼イラストレーターの日本人とコラボレートした詩集としてテレビ番組で紹介され、昨年多くの反響を呼んだ。クスッと笑えたり、じんわり染みたりするその詩は、10年以上老人ホームで音楽セラピーを続けているロビンさんが書き留めた日記のようなものだ。どうしてこんな詩が書けるのか。ロビンさんの温かな目線を、人として見習いたい。

 

「この前、笑顔の Cさんの

 きれいな歯並びを褒めたとき

 彼女はとても喜んで

 なんと

 それを取り出し

 私に見せてくれました」

 (『 HAPPY BIRTHDAY Mr.B! 』より)

 

 一つ一つの詩はとても短く、一瞬を切り取った写真のようであり、それでいて長い年月を感じさせる物語のようでもある。『 HAPPY BIRTHDAY Mr.B! 』には、そんな99の詩と絶妙なイラストに、12曲入りの音楽 CD がついている。正に、見て聴いて感じる癒やしだ。

ロビン氏は、尺八や三味線を習うために、日本にやってきた。すでに日本語はペラペラで、日本人かと思うほど謙虚で遠慮深い。そして、世界のあちこちの養護施設や老人ホームで活動してきた経験を日本で生かしてくれている。「私の音楽セラピーには、決まった形がないんです。音楽セラピストとして施設に行っても、音楽をやらないで色鉛筆で絵を描くといったアートセラピーになることもあります。私たちは日によって聞きたい音楽が違うし、気分が悪ければ音楽なんか聞きたくない日もあるでしょう。施設にいるお年寄りも同じ。やりたいことは何かな、聞きたいだけかな、歌いたいのかな、太鼓を叩きたいのかな、と目を見たり、声を聞いたり、仕草を観察して、その日にみんなができること、やりたいことをやるんです。『さあ、みんなでこの歌を歌いましょう』っていうふうに、プログラムに縛られることはない。音楽セラピーの目的は、幸せになったり、穏やかな気持ちになることだから、押しつけるのはよくないです」。使う楽器がまた独特で、木の実が鈴なりになったものや、木の箱に針金が並んだようなもの、大きな壺……世界を旅して集めたというさまざまな楽器が、優しい音色とともに癒やしてくれるのだ。「私のセラピーでは、楽譜に頼らず、自然の力を借りて音楽を楽しむことを大事にしているんです」。

 ロビン氏が、ザンビアのある養護学校で体験した出来事がとても印象的だ。「いろいろな障害のある子ども達が180人もいる施設に行ったとき、びっくりしました。目の見えない子、耳の聞こえない子、知的障害のある子、みんな一緒にいるんです。日本では、アメリカもそうですけど、障害によって学校が分かれてますよね。でも、アフリカで私が訪ねた土地では一緒なんです。また、授業は午前中だけで、午後は自由行動になるんです。しかも、ほとんどの先生たちは帰っちゃうんですよ。日本では考えられないでしょう。障害のある子どもたちだけで過ごさせるなんてとんでもないって、親が文句を言うでしょうね。でも、子どもたちはすごいんです。お互いに障害を補い合うんですよ。例えば知的障害の子は、お昼の時間が来ても気づかないけれど、耳の聞こえない子が時間を教えて、知的障害の子に道案内をしてもらいながら一緒に食堂まで行く……といったことがごく自然に、誰が教えるわけでもなくできている。子ども達だけで助け合うことがちゃんとできるんです」。

 それは、聾唖学校だ、盲学校だと分けていたら起こらないこと。ロビン氏は、専門性を追求することは必要だけれど、それだけで考えると、先生も子どもたちも狭い世界になってしまうんじゃないかと心配している。ロビン氏の音楽セラピーは、どこかアフリカを思わせる自由なスタイル。それを学びたいという若者もいるようだ。

 「あちこちの施設から呼んでもらうのは嬉しいことですけれど、1回だけじゃなく、一人ひとりにもっと丁寧に関わっていかなければいけないと思っています。今は私じゃないとダメという状態ですけど、早く私の代わりになれる人を紹介できるようになれればいいな」。

 お年寄りや障害のある人と接するのは、神経も使うし、準備も大変だ。でもロビンさんは言う。「行けば元気がもらえるから」と、本当に楽しそうに。