3月下旬のある晴れた朝、朝刊を見ると、とんでもない犯罪がおきていました。ここはアフリカ。日本でもよくアフリカの問題はニュースでも取り上げられているけれど、この事件についてはおそらく知られていないでしょう。ある小国の非常に国内的な悲劇ですが、とにかく悲劇には変わりありません。
その週末、首都のあるドライクリーニング店に強盗が押し入り、何点かの衣類が盗まれたのです。犯人らは手早く慎重に高級品とデザイナー品のみを選び、すんなりと逃走した模様。しかし彼らは、盗んだ衣類の山の中に大統領のズボンが6本も紛れ込んでいたとは露知らず・・・
普通であれば、被害を受けた店主が通報し、盗品について警察が懸命な捜索にあたります。しかし今回は、事情が事情だけに国中の警察関係者と軍隊を挙げての捜査が執り行われたのです。大統領の私物が盗まれ、官邸では裸の大統領が激怒・・・
被害者を気の毒に思う反面、この場合、もしかしたら犯人の方が気の毒な立場にあるのでは、とは思いませんか。普通なら、彼らは翌朝にも盗品を巨大な野外マーケットに売り飛ばし、現金片手に人ごみにまぎれて逃げおおせたのです。しかし、その朝は警察が日の出からマーケットをしらみつぶしに捜索していたのです。そこら中に警官がうろうろしています!大統領のズボンはもちろんカスタムメイドで、最高級のインポート生地が使われていたのですから、すぐに見分けられるものです。そんな素材や仕立てはそのマーケットでは普段見られる代物ではなかったのです。事件のニュースはたちまち広がり、さらに不運なことには、大統領は背が高くとても恰幅のいい体型でした。つまり大男だったのです。1本のズボンに普通のサイズの人がふたりぐらい入ってしまうというウワサ。そんな巨大なズボンを6本も持っていたのですから。
そのまま売りさばくことが無理なら、残る望みはズボンを切り刻んでしまうことでした。およそ12メートルの生地を手にしていると考えて、何着かのスーツに仕立て直すことが可能でした。(でもいったい誰にそれを着る度胸があるでしょう?)あるいは、一軒分のカーテンにもなります。(でもいったい誰にそれをつるす度胸があるでしょう?)はたまた、小型車の内装にもなります。(でもこれも目立ってしまうでしょう?)5つ星ホテルの枕カバーはどうでしょう?
一刻も早くいい案を考える必要があるのです。あなたなら大統領のズボン6本を持ってどこへ行きますか?どうしますか?