神戸カフェ vol.1 MUSICA

ライター 市橋かほる

民族音楽家であり作家でもあるロビンさんのもう一つの顔。

それは、こよなくカフェを愛する『カフェ巡りの人』。

今日もロビンさんは美味しいお茶、落ち着くBGM、素敵なマスターを求めて出かけます。

さあ、あなたも一緒にロビンさんとのひとときを楽しみませんか。

VOL.1

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紅茶専門店「Tea House MUSICA KOBE

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本日めざすカフェは、神戸・元町にある紅茶専門店「Tea House MUSICA KOBE」(ムジカ)。

紅茶好きの人の間では紅茶の聖地とも知られているそう。

ロビンさんは、神戸に居ながらにして自分のルーツでもあるイギリスを思い出させてくれる心癒される唯一無二のお店だと教えてくれました。

紅茶のポットを前に、ロビンさんの生い立ちから作家としての言葉への想いも知ることになります

気持ちのいい風が吹く午後、三宮のセンター街を歩くロビンさん。

小さな階段をあがった先には思いのほか広い空間が広がっていました。

いい雰囲気でしょ。

このお店はとにかく紅茶の種類が多いんですよ。イギリスでもこれほど紅茶の種類が揃っている店は、なかなかないと思います。

ほら、この分厚いメニューも見て下さいよ。18ページもあるんですよ。そして、1ページ1ページにこんなに詳しく書いてある。ここに、国の名前や「アッサム」とか「ダージリン」って地名が載っていて。私はアジアやアフリカの諸国を旅してきたから、メニューを見ているだけで当時の思い出が蘇ってきて懐かしくなります。

マスターが、この茶葉はいつどこでどんな風に取られたかというのを詳しく教えてくれるんですよ。聞いているだけで、その風景も目の前にぱ~っと広がりますね。聞いたことのない土地の紅茶もたくさんあって、どんな場所だろうって想像も膨らみます。いろんな場所に行っているマスターのことがうらやましくなるし、マスターが本当に紅茶を愛していることも伝わってきます。この店で紅茶を選ぶということは、私にとって知らないことを知ることができる喜びの時間でもあります。

入った瞬間、一目ぼれだったんですよ。

以前住んでいた京都から神戸に移ってきて、元町をぶらぶら歩いていたら、看板が出ていて。「あ、紅茶の専門店があるぞ」って入ってみたんです。すると、クラッシック音楽がまず耳に飛び込んできて、今度は壁にずらりと並ぶ絵画が目に入ってきた。まるでイギリスのちょっとした上流階級の世界に足を踏み入れた感覚でした。「あ、神戸に来た!」って思わず思いました。

こんな風に西洋文化を上品に取り入れているのが、私が思う神戸のイメージだったんです。お店のお客さんもどことなく上品でしたね。知り合いに「今日こんな店を見つけたよ」って話したら、「あそこはいい店だよ。神戸らしい店だよね」っていう反応だったので、「ああ、やっぱり」って思いました。

紅茶を運んでくるマスター。

大きな白いポットがテーブルに置かれます

私の家にもこんな白いポットがあったんです。

私の紅茶好きは父譲りです。イギリス人の父は若い頃、アメリカに渡り、そこで出会ったあるアメリカ人女性と恋に落ちました。それが母です。2人は結婚し、そのままアメリカに住むことに決めました。しかし、2人が築いた家庭はイギリスの雰囲気だったんです。

朝起きると、もっと大きいんですけど、こんなポットがテーブルの上に置いてあって。一番早く起きた人がティーバッグを入れて紅茶を作るというのが我が家のルールでした。小さい時は砂糖やミルクをたっぷりいれて甘くして飲みましたね。これは、よくあるイギリスの庶民的な家庭の一場面ですよ。アメリカの家庭とは全く違う。私はアメリカでイギリスの文化に囲まれて育っていたんです。もっとも、そのことに気づくのはずっと後になってからのことでしたが。

夏休みになると、イギリス・ロンドン郊外にある父親の実家でおじいちゃんとおばあちゃんと過ごしました。そこにもビスケットと一緒にやっぱり紅茶があって。キッチンには紅茶のティーバッグがいつでも山積みにしてありました。女性陣は朝からポットに入れた紅茶を囲んでずっとおしゃべり。お湯が無くなったらまた足して。そうやって昼まで飲み続ける。もう、ポットには紅茶のしみがびっしりしみついていましたね。

紅茶はいつも私の側にあありました。こうやって紅茶を飲んでいると自然と家族を感じられる。ここは特別な空間です。

ポットからお湯を継ぎ足して

ノートを開くロビンさん

時間の流れがゆっくりでとても落ち着くでしょ。だから、この店で決まってするのは、自分のメモを振り返ること。どんな国に行っても、このように落ち着くカフェを探しては詩やエッセイを書き続けてきました。いつもノートを持ち歩いていて、自然の美しさや人の温かさみたいなものをメモとして書留めてきました。それを眺めて、まとめ直す作業をしています。

今年中には、このノートを元にした本を出版する予定です。自然をテーマにした詩集で、英語と日本語の両方で表現しています。これまでに2冊の絵本を作ったことがあるのですが、それをある出版社の方が目にとめてくれたのが、新しい本のきっかけです。

その人は京都にあるミシマ社の社長さんです。

「日本人が忘れかけている美しさを、何より日本的な言葉で表現している」

私の詩を見てそう言ってくれて。

「今の時代の人たちに、この素晴らしい風景や自然をもう一度見せてほしい。幸せな気持ちになる文章がここにはたくさん詰まっている」と後押ししてくれたのです。

読んてくれた人が「今ある幸せ」に気づいてもらえたらそれは本当に嬉しいことですね。

俳句に出会ったのは高校生の時。それ以来ずっと詠んでいます。

アメリカの高校で「フリーライティング」という授業を選択したら、課題に俳句や短歌があったんです。俳句や短歌というのは、長く書くのではなくて、いかに短くするのかを問われました。欧米ではどちらかと言うと説明が多かったり、大げさに書いたりするものが多かったのでとても新鮮でした。その時から「短く伝える」ことが習慣づいて、今に至ります。短く伝えるには本質を捉えることがとっても大切ですから、俳句を通してそういうことに敏感になっていきました。特に良寛や一茶の句に大きな影響を受けましたね。唐、宋時代の漢詩も大好きです。

書くことや、書いたものを振り返ってまとめる作業は私にとってはとても自然なことです。感じたことをどう表現するか、それは人それぞれでしょうけど、私の場合はそれが音楽であり、俳句なのだと思います。だから今まで続けてこられたのだと思います。

誰かのためとか、何かのためにしようとか、そう考えだすともう不自然になってしまう。だから、本を作る時もできるだけそういうことは考えず、自分の気持ちだけに向き合うようにしています。

そういう時にこの場所は最高なんですよ。

~マスターとのひと時~

P:ロビンさんとマスターの写真)

《紅茶のこと》

ロビン:紅茶の種類が本当に多いですね。何種類あるんですか?

マスター50種類ぐらいです。直接買い付けに行っていますが、季節によって手に入るものとそうでないものがありますね。

ロビン:わー、そんなにたくさん!お客さんはどうやって紅茶を選んだらいいの()

マスター:それは、「飲みたいものを飲んでください」としか()。どんな目的でこの店に来られたのかを教えてくれたら僕もお手伝いしやすいですね。お客様によって目的はそれぞれですからね。ランチやスコーンのセットもメニューにはあるので、どの紅茶か迷った人は参考にしてもらったらいいかもしれない。食べ物に一番合う紅茶をセットにしていますから。でも、ウチは紅茶の専門店だから、紅茶だけを楽しんでもらいたいのが本音ではあるんですよ。

ロビン:でも、ランチもすごくおいしいですよ。このオムライスもカレーも。

マスター:ありがとうございます。お客様の要望もあって昔から喫茶店にあるシンプルなメニューだけは置いています。紅茶の味わいの邪魔にならないようにね。

《音楽のこと》

ロビンBGMの音楽がとても素敵ですね。どのようにして選んでいるのですか?

マスター:私の好みで、その日の気分ですね。ベートーベンとかウィーンフィルとか。個人的にピアノがとても好きです。お客様の中には素晴らしい演奏家の方も多くいらっしゃるので、流れている曲をきっかけにお話を聞かせてもらうのも楽しみにしています。

ロビン:ああ、このお店と音楽家は相性がいいでしょうね。

マスター:昔からクラッシックが好きだったわけではないんですよ。でも、お茶の国を訪ね歩いているでしょう。そうすると、お茶の話をしていたのに、最後はいつもクラッシックとかジャズの話になるんですよ。それをきっかけにどんどん音楽に興味を持つようになりました。ロビンさんの民族音楽のワークショップも行きたいなって思っているんですよ。どんな音楽なのかなーって考えるだけでワクワクしますね。

ロビン:それは嬉しいですね。ぜひ一緒にやりましょう。

《こだわり》

マスター:僕はね、店のHPも持っていないんですよ。メールもしないし、キャッシュレス決済もしていない。

ロビン:そうでしたか。私もHPはありますが、 Facebook もメールもしていません。だから気が合うのかな。でも、こんな立派な店でそれを貫いてるのはすごいですね。

マスター:ITに関心がないわけではないんですよ。でも、自分がいつも目が届く範囲で続けられることしかしたくないし、お客さんに喜んでもらうことをもっと考えたいと思っています。よくマルシェなどにも出店しないかと誘われることもありますが、僕はこの場所に来てもらってここで紅茶を飲んでもらうことを大切にしています。

《歴史とともに》

ロビン:このお店はいつからされているのですか?

マスター1952年創立の大阪・堂島にあったお店を暖簾分けしてもらったのが始まりです。1972年に先代が三宮センタープラザで開いて、元町のこの場所に移ったのは2004年です。「MUSICA」は日本の紅茶の歴史、いや日本の喫茶店の歴史とも言える存在だと思っています。

ロビン:時代とともに歩んでこられたんですね。

マスター:日本は島国でしょ。だから、これまで外国の情報や文化がうまく入らないこともあったり、入ってきても日本に合うように変えたりしてきた。でも、僕はその国の文化をもっと尊重して大切にするべきだと思っています。だからここの紅茶もイギリスやインド、アフリカなどそれぞれの文化を大切にしたまま提供させてもらうことにこだわっているんですよ。

ロビン:なるほど。だから、私がここでは、故郷や旅した国のことをそのまま感じられるんですね。

店名:「Tea House MUSICA KOBE

場所:神戸市中央区三宮町3-9-2 2F

マスターのお名前:前田さん

その日のBGM:Vivaldi

チャイの有無:有 チャイとスパイスティ(10種類)

日本で初めてポットで紅茶を提供したことで有名な「Tea House MUSICA」。1952年創業の大阪の本店(2013年芦屋に移転)に続き、1972年に三宮に店を構える。JR元町駅から3分。センター街途中のビルの2階。