ジャングルシャワー ~マウンテンゴリラからの歓待~


Illustration:Bitsibu Muphumbuka

 

アフリカ、ウガンダとコンゴの国境線に沿って朝日が昇る。休みなく小雨が降り続く中、泥地にたてたテントをたたみ、出発の仕度にとりかかった。自然愛好家や冒険好きが集まった小さなグループの一員として私もガイドに会うためベースキャンプへと向かう。目的は山奥に住む野性のマウンテンゴリラを探すこと。地元のガイドは、ジャングルへの道を自分の庭のように熟知している。しかしながら、ゴリラは毛ほどでも「道」らしきものには絶対に近づかない。ここに住むゴリラは家族を連れて常に移動しており、毎日新しく作る居心地のいいベッドで眠りにつくらしい。

 

グループを引率するベテランのガイドとならんで、トラッカーと呼ばれる人たちがいる。彼らは、森の中で一日中ゴリラたちとつかず離れずの距離を保ち、ゴリラたちの動向をガイドに知らせるのが仕事だ。片手になたを、もう片方にはライフルをぶらさげている。ライフルはゴリラに危害を加えようとするほかの人間を威嚇するため(ゴリラが人間に危害を加えることはない・・・)、なたは密林に道を切り開くためのものだ。通り道は、狭く曲がりくねり腰をかがめないと進めないようなもので、一年中雨が降るジャングルでは、一日なたが振り下ろされなかったらそこは元のとおりの密林へと戻ってしまう。こんな奥地にまで来る人はめったにいない。来たとしても、もしも、ゴリラへの脅威となるような菌を持っている疑いがあれば(それがただの風邪だとしても)、そこから先に進むことは許されない。また、完全な健康体でジャングルの奥地まで進むことができたとしても、必ずしもゴリラに出会えるとは限らない。鳥やサル、顔に向かって猛スピードで飛んでくる羽虫の群れや、動物の血を求めて足元でうごめく得体の知れない生物たちは例外だ。ゴリラが人間の訪問をいやがって避けているというわけではない。広大な密林の中で限られた時間内にゴリラの居場所を見つけだすことが難しいのだ。

 

ところが、今朝のトラッカーたちの話では、チャンスがあるかもしれないという。近辺で少なくとも4家族のゴリラの動きが目撃されているらしい。ここから歩いて30分か、はたまた3時間か・・・

 

はたして3時間後、生い茂る草木に開いたこぶし大の隙間になたをふりおろすと、整えられたばかりの空き地がぽっかりと現れ、そこにゴリラの一家がゆったりとくつろいでいた。その中で赤ちゃんゴリラがジャングルのツルでターザンごっこを披露しはじめた・・・

 

突然、私の後ろの木がガサリと音を立てた。と、腕を伸ばせば届く距離に赤ちゃんゴリラがいた。そして、私の頭上を向こう側の枝へとすべり渡る瞬間、このいたずらものはなんと!放尿した。パパゴリラはそっぽを向き、知らん顔で茂みにもたれかかっている。いたずらっこは走り去り、忘れがたい臭いがふわりと漂った。シャワーは全天候型パーカを完全に貫通していた。誰も想像だにしなかったジャングルシャワー・・・・・・はじめ小雨、のちドシャ降り。頭から肩、靴ひもにいたるまでびしょぬれになったのは、ただひとり私だけだった。

 

♪ピッチピッチ チャプチャプ ランランラン

 

ポレポレ基金
http://jinrui.zool.kyoto-u.ac.jp/