Cool…

このサルはカメラとは何か、私がどれだけ真剣にいい写真を撮ろうとしているか知っている。彼はじっと動かないで、クールな表情でまっすぐにカメラのレンズを見据えている。3枚、4枚、5枚…10枚目のシャッターを切っても彼はじっとしている。このサルは、私が彼の写真を多くの人々に見せ、印刷して世界中に送ろうとしていることを察知している。この猿さんのおかげで私たちは楽しめる。

 

そういえば、私はこの写真を撮った後、彼に「ありがとう」と言ったっけ?サルの肖像食事の邪魔をしたことを謝ったっけ?できあがった写真と展示会への招待状を送るために彼の名前と住所を控えようとしたっけ?

 

いつか、何の前触れもなしにこのサルは私の家に乗り込んできて、望遠レンズを私の顔に向けて写真を撮り始めるだろう。私がまだ寝てようが(彼は高性能のフラッシュを持っているので)気にしない。トイレに座っていようが、食事中であろうが、仕事をしていようが、誰かとプライベートなおしゃべりを楽しんでいようが、全く意に介さず、部屋中追いかけまわすかもしれない。彼は写真の背景、明るさ、フィルムスピード、ピント、それから私がおもしろい表情をしているかどうか以外のことは気に止めない。満足のいく写真が撮れたら、人間はいかにキュートかとつぶやいてそそくさと帰ってしまうことだろう。

 

もし、皆さんが『人間の肖像』と題したサルの撮った写真展をみかけたら、私の写真があるかどうかチェックしてきてほしい。よく仕上がった肖像写真なら、ぜひ母に送ってやりたいと思うから。私には招待状は来ないかな……。